東京大学大学院農学生命科学研究科および大阪大学産業科学研究所との共同研究により、「軽量かつ高い難燃性」を備えた新しいセルロース材料を開発しました。
近年、環境負荷の低減やリサイクル性の向上を背景に、セルロースを基材とした材料への需要が高まっています。一方で、セルロースは本来可燃性が高く、建築資材や各種産業用途に適用するためには、難燃性の付与が不可欠です。 従来の難燃紙では、無機物の内添、無機繊維の混抄、難燃薬剤の含浸などの手法が用いられてきました。しかし、難燃成分を均一に分散させることが難しいことに加え、含有量の増加に伴う重量増加や環境負荷など、多くの課題が指摘されてきました。特に、軽量性と高い難燃性を同時に実現する材料の開発が強く求められていました。
当社セルロースナノファイバー「レオクリスタ®」の中間体であるTEMPO酸化パルプを基材とし、対イオン変性および無機物複合化による難燃性の向上に取り組みました。※ 「レオクリスタ」は第一工業製薬株式会社の登録商標です。
まず、TEMPO酸化パルプの対イオンをナトリウム(Na)やアルミニウム(Al)に変性することで、限界酸素濃度指数(LOI)が大きく向上しました。特に、Na塩型ではLOIが28に達し、Al型ではさらに高い難燃性が確認されました。
さらに、CaCO₃やAl(OH)₃などの無機物を複合化することで、難燃性の一層の向上を図りました。CaCO₃を複合化した場合、LOIは33まで向上しましたが、重量が約2倍になるという課題が残りました。 一方、Al(OH)₃を複合化した場合には、わずか8 wt%の添加でLOIが38に達し、軽量性を維持したまま極めて高い難燃性を実現しました。
クラフトパルプ 及び Al(OH)3複合化パルプの燃焼挙動
SEM観察およびNMR分析の結果、Alがパルプ中に均一に分布し、繊維表面で結晶化していることが確認されています。また、防炎試験(JIS A1322-1966)においても、Al(OH)₃複合化パルプは防炎1級相当の性能を示し、実用的な難燃材料としての有効性が明らかになりました。
対イオン変性と無機物複合化という2つのアプローチを組み合わせることで、従来課題とされてきた「軽量性」と「高い難燃性」の両立に成功しました。特に、Al(OH)₃複合化パルプは、少量の無機物添加で高い難燃性を発現する点が特長であり、建築資材や各種産業用途における新たな選択肢として期待されます。 今後は、さらなる性能向上および量産化技術の確立を進め、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
京都中央研究所コーポレート研究部サステナブル材料グループ齊藤 加奈子
掲載データは、測定条件等に基づく代表値であり、品質保証値ではありません。