医薬品有効成分や健康食品素材などの
機能性物質は水に溶けにくいものが多く、
開発中の原薬のほとんどが難溶性物質と言われている1)。
それら水に溶けにくい物質の機能や効能を高めるには
溶解性を向上させ、消化管吸収性を上げる必要があり
固体分散体化はその手段の一つである。
本稿では「難溶性物質の固体分散体化の受託」を目指し、
ショ糖脂肪酸エステルを乳化剤として用いた場合の
溶出性および経口吸収性向上に関する
研究成果を紹介する。
1) 参考文献 P.V. Arnum, Pharm, Technol., 34, 50-56(2010).
固体分散体とは
固体分散体とは、結晶性で水に
溶けにくい難溶性物質が水溶性ポリマーなどの不活性な担体中に、非晶質で分散した状態の固体をさす2 )
(図1) 。非晶質固体分散体を水に添加すると、一時的に高い溶解度が観察されるが、結晶の析出によって時間とともに溶解度は低下して、最終的には結晶溶解度に達すると言われている3 ) (図2) 。
2) 参考文献 中川 晋作ら:オレオサイエンス, 2, 53-60 (2020).
3) 参考文献 川上 亘作:ファルマシア, 5, 402-406 (2016).
研究概要
当社では固体分散体技術の確立を目指して、2021年から静岡県立大学薬学部の近藤啓教授と共同研究を行っている。
具体的には、難溶性のモデル物質としてクルクミン(図はCURと表記)、水溶性ポリマー(ポリマー)、ショ糖脂肪酸エステル(SE)を用いた。従来、難溶性物質とポリマーの2成分系が一般的であるが、第3成分に乳化剤としてSEを用いることで、さらなる溶解性・吸収性の向上が期待できる。
目的
当社が目指しているのはクルクミン製品の開発ではなく「難溶性物質の固体分散体化の受託」である。これらの取り組みを社外にアピールするために学会発表を行っており、2022年から日本薬物動態学会、製剤と粒子設計シンポジウム、日本薬学会、日本薬剤学会、日本機能性食品医用学会に、合計8回の発表を行った。また、受託対象として医薬品や健康食品を想定している。
実験方法
❶固体分散体の調製
クルクミン、ポリマー、SEをエタノールに溶解後、エバポレーターで溶媒留去し、固体分散体を得た。ポリマーやSEの有無および他の乳化剤に置き換えた固体分散体について、非晶質化、溶出性、および経口吸収性におよぼす影響を確認した。
❷結晶性の評価方法
結晶性は、示差走査熱量計(DSC)およびX線回折装置(XRD)を用いてクルクミン由来のピークの分析によって評価した。
❸溶出試験
クルクミンの溶出性を溶出試験(パドル法、50rpm)で評価した。各サンプル(クルクミンとして15mg)をゼラチンカプセルに充填し、シンカーに収容し、溶出試験器に入れた。サンプリング液を0.45μmのフィルターでろ過し、エタノールで2倍に希釈した後、0.20μmのフィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でクルクミン濃度を定量した。
❹粒子径
溶出試験ベッセル内の粒子状態を参考として評価した。固体分散体を水に分散・溶解後、5μmのフィルターでろ過し、所定時間後の粒度分布(体積分布)を動的光散乱法により測定した★1。
★1 測定装置:マイクロトラックベル社製 Nanotrac WaveII
❺加速試験
安定性を評価するために加速試験を行った。固体分散体粉末をアルミパウチまたはポリ瓶に充填し、40℃・75%RHの恒温槽で保管した。6カ月保管後、XRDを測定し、非晶質維持を評価した。
❻ラット経口吸収性評価
雄性ラットに固体分散体の水懸濁液を経口投与した後、所定時間で尾静脈から血液サンプルを採取。血漿サンプルを除タンパク後、HPLCによりクルクミン血中濃度を評価した(クルクミン投与量:200mg/kg、給餌条件:絶食)。
結果と考察
結晶性の評価
DSCから、クルクミン原末は180℃付近に融点ピークを示したが、ポリマーを用いた固体分散体(クルクミン/ポリマー、クルクミン/SE/ポリマー)ではクルクミンの融点ピークは消失した。このことから、ポリマーを用いた固体分散体では、クルクミンは非晶質化されていることが判明した(図3)。
同様にXRDでは、ポリマー入り固体分散体ではクルクミンの結晶ピークが消失した(図4)が、クルクミン原末では結晶ピークが認められた。ポリマー入り固体分散体によるクルクミンの非晶質化はXRDでも確認できた。
溶出試験
❶結晶性・SEの影響
クルクミン原末は全く溶出しなかったが、クルクミン/ポリマーおよびクルクミン/SE/ポリマーの固体分散体は溶出性が向上した
図5)。また、SEを含む組成は、より良好な溶出性を示した。SEの効果のメカニズムについては、今後調査する予定である。
一方、クルクミン/SE/ポリマーの物理混合品はほとんど溶出しなかった。組成が同じでも、非晶質化しないと溶出性が劣ることがわかった。
図5溶出試験の結果(結晶性・SEの影響)
❷乳化剤違いによる影響
クルクミン/ポリマーの比率は変えず、SEをポリグリセリンエステルやポリソルベート80に置き換えた固体分散体の評価も行った。
ポリグリセリンエステルよりもSEの方が、溶出性が優れていた(図6)。乳化剤でも適した組成があると判断した。
また、ポリソルベート使用品は粘稠物であった。固体分散体と言える物性ではなかったため、溶出試験は実施しなかった。
図6溶出試験の結果(乳化剤違いによる影響)
❸粒子径評価
SE不使用品は、クルクミンの析出が多く、前処理で5μmのフィルターを通過した粒子が少なかったため、粒子径を測定できなかった。
一方、SE使用品はD50が0.45μm以下であった(図7)。溶出試験のサンプリング時に0.45μmのフィルターを通過するサイズが多かったため、良好な溶出試験結果が得られたと判断した。
図7粒度分布
❹安定性評価
SE使用の有無、容器(ポリ瓶、アルミパウチ)にかかわらず、加速試験条件下(40℃・75%RH)で6カ月間非晶質状態を維持した(図8)。25℃で3年間、非晶質状態を維持できると推測した。
図8加速試験の結果 (XRDチャート)
❺ラット経口吸収性評価
吸収が認められなかったクルクミン投与群に比べ、固体分散体であるクルクミン/ポリマーおよびクルクミン/SE/ポリマーは顕著なクルクミン血中濃度の上昇を示した(図9)。さらに、SE使用品の投与群では高い血中濃度が維持され、AUC(0〜8h)およびAUC(0〜24h)はそれぞれSE不使用品の投与群の2.7倍および4.7倍であった。(AUC:血中薬物濃度時間曲線下面積。吸収の程度を示す値)
図9ラット経口吸収性評価の結果
結論
クルクミン/SE/ポリマーの3成分からなる非晶質固体分散体は、良好な溶出性・経口吸収性を示した。また、2成分系のクルクミン/ポリマーよりも優れた効果を示し、経口投与後、高いクルクミン血中濃度維持を確認することができた。
おわりに
前述したように、機能性物質には水に溶けにくいものが多い。新薬の開発においては、優れた効果を発揮するにもかかわらず、その難溶性が開発を停滞させ、場合によっては頓挫してしまうこともある。当社では「難溶性物質の固体分散体化の受託」を目指し、技術開発の一環としてクルクミンを難溶性物質のモデルとして研究を進めている。本稿では、ポリマーやSEを用いた固体分散体化による溶出性・経口吸収性の向上に関する研究成果を紹介した。培った技術が顧客の課題解決に貢献できるよう、技術開発をさらに推進していきたい。
岩木 徹
研究本部 新規材料開発研究部
新規材料開発グループ 専門課長