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役員座談会

役員座談会 SMART 2030が示すサステナビリティ経営

  • 社外監査役宮永 雅好(写真左)

    (株)日本債券信用銀行、シュローダー・インベストメント・ジャパン(株)取締役、プルデンシャル・アセット・マネジメント・ジャパン(株)投資運用部株式担当最高運用責任者を務めたのち、(株)ファルコン・コンサルティング代表取締役就任(現任)。現在、中央大学ビジネススクール特任教授や(株)ユニバーサルエンターテインメント、(株)エステーの社外取締役を兼任。企業経営者の経験と大学教授として培った企業価値評価、コーポレートファイナンス等の学術的知見を備えている。2024年6月より当社社外監査役。

  • 代表取締役常務取締役清水 伸二(写真中)

    1992年当社四日市工場製造課に入社後、人事総務本部長、中国の海外子会社のマネジメントを経て、財務本部財務部長、執行役員生産本部長を歴任。2022年より取締役、2025年4月より代表取締役常務取締役就任。管理・企画、生産子会社運営などの豊富な経験と知見を有し、財務・会計に精通している。

  • 取締役上席執行役員坂本 真美(写真右)

    1988年当社研究開発本部に入社後、繊維薬剤の研究に22年従事。その後、界面活性剤営業西部担当部長、社長特命室長、広報IR室長、管理本部長等を歴任。2020年執行役員、2024年上席執行役員(現職)。結婚、両親の介護などのライフイベントと仕事を両立し、女性管理職の先駆者的存在として女性の働きやすさ向上の実現に寄与。多様性の推進を積極的に行う。2025年6月に取締役就任。

事業の継続性を最優先に掲げ、サステナビリティ体制を強化

  • 宮永

    新中期経営計画「SMART 2030」は、2025年6月に取締役に就任した坂本さんが戦略統括部長の時、組織傘下の戦略企画部を中心に各本部と共に策定されました。「SMART」の最初の“S”はサステナビリティを意味しますが、この意味についてお伺いします。

  • 坂本

    “S”は持続性のある事業推進を指しています。事業の継続には地域社会、社員、サプライチェーンなど多様なステークホルダーへの配慮が不可欠です。中でも山路社長が重視するのが人的資本です。従業員の技術力や知見は研究開発・製造現場・安全管理などの根幹を支えるものなので、教育への投資をすることで事業の継続につながる人財を育成しようとしています。また本中計では、「人材」を大事にするという意味から「人財」と表記しています。

  • 清水

    私も人的資本が最も重要だと考えています。新中計では「戦略的人財育成」、「労働生産性向上」、「社員の自立が会社の成長につながる」というメッセージを明確に打ち出し、人財を「資源」ではなく「資本」としてとらえ、積極的に投資する方針です。

  • 宮永

    一方、社外にも目を向けなければなりません。グループ経営の強化や海外展開の中で、サプライチェーンにおける人権尊重の視点も避けては通れず、具体的な対策が必要です。

  • 坂本

    おっしゃる通りです。まずは個別の施策に対する定量的な目標を全社で共有し、施策を具体化して経営戦略に落とし込むことが重要です。今年からサステナビリティ委員会の体制を見直し、サプライチェーン部門も参加しています。来年度からは社長が委員長を務める予定で、推進力がさらに高まると期待しています。

DKSならではの技術と素材を生かしたカーボンニュートラル

  • 宮永

    新中計ではカーボンニュートラル(CN)も重要課題です。しかし、環境問題は短期的に成果を出すのが難しい分野なので、現場の一人一人の工夫や意識が重要です。2050年に向けてGHG排出量削減の取り組みの加速をどのように進めていかれるでしょうか。

  • 清水

    DKSでは2002年からISO14001の取得をきっかけに環境マネジメントをスタートしており、生産本部の品質保証部(当時は環境安全品質部)を中心にCNを進めてきました。課題の洗い出し、評価、得点化を行い、目標に落とし込む流れを繰り返してきたので、その構図がかなり刷り込まれています。しかし全社的にはまだ浸透が不十分で、中期経営計画により経営戦略部門が中心に全社活動をスタートしました。

  • 宮永

    環境に関してはさまざまな指標があり、ベンチマーク企業の数値を相対的な目標として設定することが大事です。一方で、社内での絶対的な目標として新中計には、環境貢献型製品比率30%以上、GHG排出量削減は対2013年比30%削減、モーダルシフト化率30%、という目標が掲げられています。

  • 坂本

    具体的には、環境貢献型製品の拡大や製造工程での負荷低減を目標に、蒸気トラップの高効率化など省エネ策を各部門で実施しています。もっとも、環境貢献型製品については定義づけが重要なので、サステナビリティ担当が今までの製品の振り分けなどを行っています。ありがたいことに、当社は環境に配慮した素材を数多く保有していますので、それを活用した開発など、社員の意識も自然とサステナビリティに向かっていけるのではないかと思っています。

  • 宮永

    社内の意識を高めて、全社的に浸透していくには、環境貢献型製品の環境負荷低減をインセンティブや人事評価につなげることで、モチベーションを高めていくという方法もあります。また、そうした環境貢献型製品の売上成長への貢献も評価軸にすると良いでしょう。

  • 清水

    実際、山路社長の発案で企業価値に貢献した従業員を表彰する制度もできました。一方で、売上と環境対策は相反する傾向にあります。2024年度は売上高が増えましたが、廃棄物量も増加しました。そこが化学メーカーとしての難しさでもあります。そうした問題の解決策として、環境対策が売上や利益のマイナスにならないような施策が必要です。具体例をいえば、廃棄物を再利用し、酢酸ナトリウム水を結晶化した製品を開発しました。現在、サステナビリティ原料への関心が高まっていることもあり、複数の取引先で評価段階に入り、量産体制も整備しています。また、スプレードライ技術で液体製品を粉末化することで、輸送時のエネルギー削減にも取り組んでいます。また、この粉末化技術自体はエネルギー負荷が高いのですが、滋賀工場ではそれを10分の1に抑える設備も導入しました。

「チャレンジ」を軸に、新人事制度をスタート

  • 宮永

    新中計では人事制度の再構築を掲げ、従業員のエンゲージメント向上や企業風土変革に取り組んでいます。これに合わせ、この4月から評価制度が大きく変わりました。人事制度の改定には、非常に時間と労力がかかったと伺っていますが、人的資本の強化にどのようにつながることを期待しているのでしょうか。

  • 坂本

    まず、最初に着手したのは2020年です。1年間議論して、それが3年間凍結されて、2024年に1年かけてこの4月からスタートすることができました。大きな特徴は、新中計の肝となる3つのキーワードに「チャレンジ」を入れたこと。設定した目標以上の成果を出した人が正当に評価される仕組みに変えました。チャレンジの結果にかかわらず、失敗を恐れずに挑戦したこと自体を評価し称賛する風土醸成をめざしています。

  • 宮永

    非常に良い取り組みですが、人事評価というのは査定者によって評価に差が出やすい仕組みでもあります。例えば、私が教えているビジネススクールなどの大学院では、大学の学部と違って、正解のある試験や課題レポートがない専門分野が多いので、先生によってその主観的評価に差が出てしまいます。そのため、SとかAを沢山つける先生がいると、そうした先生の授業を取った学生のGPAが相対的に高くなってしまいます。そこで、SとAは受講生の何パーセントまでという相対的な評価軸を決めている大学院も少なくありません。DKSにおいても、今回の人事制度の改革の効果を上げるために、評価基準の統一が必要ではないでしょうか。

  • 坂本

    確かに部門ごとに評価基準や評価に差があると社員の不満につながりますし、そこが従業員からも心配する声の多い点です。そのため、評価基準を統一する研修を繰り返し実施し、査定者である管理職の理解度を高めています。また、定型業務が多い部門は、高評価につながりにくいという声もあります。例えばDXなどを活用して業務改善を進めるなど、業務改善への工夫なども評価対象になります。とにかく挑戦し続けることの価値を、社内全体で共有していきたいと思っています。

  • 宮永

    とても前向きでいい取り組みだと思います。ただ実際には、同じ組織にいると、現状追認型になりがちで、なかなかチャレンジに結びつかないことが多いのではないでしょうか。そもそもチャレンジするには、チャレンジしたいと思わせることが大切で、特に上司との対話の中で、部下が考えていることを応援したり、必要となるスキルのための研修や勉強を積極的に勧めたり、組織、特に上司からの支援が必要だと思いますが、いかがでしょうか。

  • 坂本

    そうですね。やはりチャレンジには、自主性が大事です。そのためのスキルアップの機会も押し付け型ではなく、手挙げ制にしています。また、この人には将来こんなことを担って欲しいと思ったら、1on1ミーティングなどで、「こんな研修があるので、行ってみませんか」などと提案することも必要です。もちろん、本人から「これに行きたいのですが」と言われれば、そうした姿勢を尊重してできる限り支援していくつもりです。

  • 宮永

    そこで、新人事制度の話に戻ると、こうした制度改革の影響を測るために、社員へのアンケート調査も活用できそうです。特に変化を感じている従業員の意識や声を拾うことが重要だと思います。

  • 清水

    山路社長も社員の意見や考えを知るためのアンケートの重要性を指摘しているので、生成AIで自然な質問を作成しそれに従業員が回答することでデータを収集することも検討中です。制度を変えるには、そもそも人が変わって、組織が変わって、初めて社員のマインドが変わって新しい制度が根付くものだと思ってきました。今回は、制度から入っていますので、時間の経過とともに社員のマインドがどう変化しているのかを知ることは大切だと思っています。

DKSの人的資本の強化のために

  • 宮永

    昨今、人的資本の強化が強く叫ばれていますが、本来組織は人が動かすわけで、人的資本は財務資本よりも重要かもしれません。また財務のコントロールは定石のようなものがあり、複雑性はないと思いますが、人的資本のマネジメントは複雑性が高く、正解を導くのは容易ではありません。DKSではまず、健康経営を掲げてきましたが、この点はどう評価されていますか。

  • 清水

    坂本相談役がトップの時代から継続的に取り組んできました。健康経営戦略マップも作り、KPIをきちんと決めて健康経営目標と健康管理目標をしっかりモニタリングしています。特に社員の行動変化に表れているのが、健康診断の受診率に加え、受診した後の二次検診率がほぼ100%になっています。

  • 坂本

    日頃の生活の中での健康管理も重要です。社内ではアプリを使って、食事の写真を撮ってカロリー計算をしたり、全社参加型のウォーキングイベントを実施したりしています。順位に応じてポイントがもらえ、食事券やAmazonギフトなどに交換できます。運動習慣率も2016年には13.6%でしたが、2024年には27.1%と13ポイントも増えました。アブセンティーイズムも2019年から確実に低下しています。

  • 宮永

    人的資本経営でよく言われるのが、DE&Iです。最近のアメリカでは禁句になってしまったようですが、日本においては、まだ推進すべき点が多いと思っています。DKSの中計目標にも、女性管理職比率15%以上の達成があります。現時点では約10%なので、これを達成するには女性が管理職になりたいと思える環境づくりに取り組むべきではないでしょうか。

  • 清水

    女性管理職比率の向上は、短期で達成するのか、中長期で実現するのか、組織の考え方によります。私は無理に短期で上げなくても、中期的には自然と向上してくると思っています。なぜなら、新卒・キャリア採用ともに女性比率は上昇していますし、まずは安心して働き続け、活躍するための土台があれば管理職の比率も自然と向上するでしょう。
    少し話は飛びますが、私が中国の子会社にいた時に社員は100名くらいで、そのうち約80%が女性でした。中国では一人っ子政策の影響もあり、子育ての時間はあまり長くなく、両親や祖父、祖母が手分けして行っており、男性も女性も仕事ができる環境が整っています。加えて、マネジメント力でも女性は優れており、会社幹部も女性比率が高かったです。

  • 坂本

    日本とはずいぶん環境は違いますね。確かに日本の女性は、さまざまな理由で管理職になりたくないという人が多いのですが、最近は、男性でも管理職を避ける傾向があります。「給料の割に大変そうだ」というのが主な理由です。そこで今回、管理職の報酬とともに働き方の見直しも行いました。女性の場合、育児や介護の負担が重くなることも多く、私自身、サポートを受けながら今も母の介護をしていますが、両親を2人ともみていた時は大変でした。幸い、会社の福利厚生のおかげでキャリアを諦めることなく働き続けられています。人財が流出しやすい時代ですから、社員のライフ・ワーク・バランスを尊重した配置転換など、柔軟な対応が人財確保につながります。

  • 清水

    最近、職業紹介会社の女性経営者と会話した際、女性が出産をして会社に復帰するタイミングは、キャリアを考えると早い方が良いと聞きました。産休を長めに取得できることも必要なのですが、キャリアをめざす社員は、キャリアを補填する施策や復帰を早めることができるサポートが必要と伺いました。よって、柔軟性をもって早く復帰したい社員には育児をサポートできる体制や配慮が必要でしょう。

次世代のガバナンス強化のため布石を打つ

  • 宮永

    最後に今年代表取締役になられた清水さんにお聞きしたいのですが、DKSのガバナンスについて、今後はどのような体制が必要だとお考えでしょうか。また今回は、女性で初めて坂本さんが執行取締役に、また若手の北尾取締役が抜擢されたことで、若返りと進化が示されたと思います。

  • 清水

    DKSの経営をしっかりと進めていくには、若返った経営執行者だけでなく、社外役員も含め、経験・知識を持った人との共創が重要です。SMART 2030の期間中には、新しい取締役会の体制の在り方を今一度考え、そこに向かって進んでいくことで当社のコーポレートガバナンス強化につなげたいと思っています。海外から取り入れた3委員会制度の指名委員会等設置会社は、過去必ずしもいい結果を生んでいない事例もあります。また、日本特有の監査等委員会設置会社はかなり増えていますが、監査役会設置会社に比べて、監査役の独任制がないことから監視機能として後退する可能性もあります。今後は、どのような機関設計が当社にふさわしいか、現在のメンバーの力を創発しつつ、新たな人財との融合を進め、今後さらに事業の継続性と成長へとつなげていきたいと考えています。