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分散性や耐熱性に優れたカーボンナノチューブ分散液

エレクセル®PCCシリーズ

山本 美伽 | 事業本部 環境・エネルギー事業部 環境・エネルギー研究部 エレクセルグループ

カーボンナノチューブの優れた特性を 工業用途に活用するためには微細で安定した 分散が不可欠である。当社は、カーボンナノチューブを より細かく分散できる分散剤を設計し、 分散性・耐熱性に優れた分散液の開発に成功した。 今回開発した分散液 「エレクセルPCCシリーズ」は 高い導電性を有し、 電子機器の電磁波シールドや リチウムイオン電池の長寿命化に 貢献する材料として活用が期待される。

はじめに

 カーボンナノチューブ(以下、CNT)は、炭素原子が六員環ネットワークで構成されたグラフェンシートが筒状になったナノメートルサイズの物質である。CNTはその優れた特性から、さまざまな分野での応用が期待されており、市場規模の急速な拡大が見込まれている。

 CNTの特長としては、非常に高い強度、導電性、耐久性、耐熱性、軽量性、そして熱伝導性が挙げられる。これらの特性により、CNTはエレクトロニクス、エネルギー、医療、航空宇宙など多岐にわたる分野で利用されている。具体的な用途としては、リチウムイオン電池の電極材料、透明導電性フィルム、電子回路部品、センサー材料などで、特にエネルギー分野では電池の性能向上に寄与している。  今後、CNTの製造技術が進歩すれば製造コストの低減が期待できるため、さらに広範囲な産業分野での応用が進むと予測される。特に、自動車や航空宇宙産業における軽量化と強度向上、エレクトロニクス分野での高性能デバイスの開発が注目されている。また、環境規制の強化にともない、CNTのような先端材料への需要増加が見込まれている。

CNT分散の課題

 CNTは、その優れた特性を最大限に活用するために、均一に分散させることが必要となる。CNTの分散は、機械的エネルギーによりCNTの凝集をほどいた後、分散剤により再凝集を防ぐことで実施するが、機械的エネルギーを与えすぎるとCNTの長さが損なわれ、CNT本来の特性が発揮できない。例えば、導電性や機械的強度、熱伝導性などの特性が低下し、応用分野において効果が減少する。しかしCNTの長さを維持した状態での分散には課題が多い。

 分散が困難な要因としては、CNTが強いπ共役作用とファンデルワールス力により強く絡まっており、解繊が難しいことが挙げられる。絡み合ったままの CNT は均一な濃度で素材に混ぜたり塗ったりすることができないため、CNT の特性を十分に引き出すことはできない。また、CNTの長さや直径の違い、表面の化学的性質も分散の難しさに影響を与える。さらに、分散剤の選択や分散方法の適用も重要な要素である。適切な分散剤を使用しない場合、CNTが均一に分散されず、性能が低下する可能性がある。 そこで、当社は長年培ってきた界面活性剤の技術を生かし、CNTを効率的に分散できる分散剤を設計し、分散性や耐熱性に優れたCNT分散液「エレクセルPCCシリーズ」の開発に着手した。

エレクセルPCCシリーズの特長

「エレクセルPCCシリーズ」の特長は以下の3点である。
①バンドル径が細い
②フッ素フリーの分散剤を使用
③分散安定性が良好
バンドル径とは、CNTが複数集まって束(バンドル)を形成した際のその束の直径を指す。CNTは凝集状態から解繊する(バンドル径を細くする)ことでCNT本来の特性が発現する。より細く解繊することでCNT本来の特性の向上やCNT添加量の削減が見込めることから、当社は他社品と比較して1/4程度の太さに設計したPCCシリーズを開発した。現在、顧客要望に応じた太さの異なる二種類の開発品をラインアップしている。(図1a)(図1b)(表1)

図1aエレクセルPCCシリーズ外観
図1b分散性の観

電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、倍率:×10,000、Cu箔塗布

溶剤 NMP
SWCNT濃度[wt%] 0.4
分散剤濃度[wt%] 2
粘度[mPa·s]※ 200〜250

※E型粘度計。ずり速度76.7[1/s]

表1エレクセルPCCシリーズ(開発品)の特性


フッ素フリーの分散剤を使用している点も大きな特長である。近年、PFAS規制により、フッ素を含む化学物質の規制が環境保護と公衆衛生の観点から重要となっている。他社品のCNT分散液にはPFAS規制に該当する分散剤を使用しているものも見受けられるため、代替品が求められている。当社の強みである界面制御・分散技術により、フッ素を含まない分散剤の設計に注力し、フッ素フリーの分散剤を開発した。本分散剤を使用することで、CNTを効率的に分散できること、ならびに分散安定性を良好にすることを確認している。

 加えて、優れた耐熱性を有している点も特長である。(図2)にPCCシリーズ、他社品の耐熱性試験を実施した結果を示す。他社品では、450℃付近にて顕著な重量減少が観測された一方、PCCシリーズは減少度が少なく、重量減少が抑制できている。

図2耐熱性比較試験

リチウムイオン電池(負極)への添加効果

 リチウムイオン電池はモバイル機器に広く普及しており、電気自動車などの次世代自動車についても脱炭素化に向けた国際的な環境規制にともない各国で取り組みが強化されている。超高速・大容量・超低遅延・超多数同時接続といった高度化が進む中で電源となる電池の位置づけは大きく、高エネルギー密度化や高い信頼性が要求される。

 現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度をさらに増大させ、高速充電を実現するために、負極活物質である黒鉛の代替材料として、より高容量のシリコン系活物質を用いることが注目されている。シリコン系活物質は黒鉛よりも構造が複雑であり、かつ充放電時の単位質量当たりにリチウムを挿入脱離する量が多いため、充放電にともなう膨張収縮が大きい。結果として膨張収縮を繰り返す充放電サイクルにおいて、シリコン系活物質は電極構造の破壊による活物質の欠落や電子伝導性の低下が起こり、充放電サイクル寿命が黒鉛に比べて極端に低下する。カーボンナノチューブ、特に単層カーボンナノチューブ(以下、SWCNT)を導電剤として電極合材へ添加することで、電極内の導電パスを維持し、サイクル寿命を延ばすこと (充放電にともなう容量劣化の抑制) が期待される。

 PCCシリーズの負極への添加効果を確認するため、シリコン(以下Si)を負極活物質に使用した組成※1で電極を作成し、初期効率の評価をハーフセル(対極Li)にて実施した(図3)。第1軸が初回の充電容量または放電容量、第2軸が初期効率 (初回の充電容量に対する、初回の放電容量の割合) を示している。PCCシリーズを使用することで初期効率が88%となり、他社品の初期効率83%と比較して向上した。

 続いて、サイクル特性の評価(ハーフセル)を実施した(図4)。横軸が充放電を行った回数 (サイクル数) 、縦軸は放電容量を示している。PCCシリーズは他社品と比べ、繰り返し充放電後の容量の劣化が大幅に改善された。

 また、サイクル特性に関してはフルセルでの評価も実施している(図5)。縦軸は容量保持率 (初回の放電容量に対する、あるサイクルにおける放電容量の比)を示している。100回充放電後の容量保持率は約65%であった。

 このように、負極の導電材としてPCCシリーズは他社品と比較し初期効率、容量保持率のいずれにおいても優れた性能を発揮した。


※1 Si(80)/PCCシリーズ(0.25)/カーボンブラック(4.75)/バインダー(15)。カッコ内の単位:wt%

初期効率の比較(ハーフセル) 図3初期効率の比較(ハーフセル)
サイクル特性(ハーフセル) 図4サイクル特性(ハーフセル)
サイクル特性(フルセル) 図5サイクル特性(フルセル)

リチウムイオン電池(正極)への添加効果

 近年、リチウムイオン電池のさらなる高容量化が求められている。一般的に、正極の導電剤にはカーボンブラックが配合されるが、高導電性のSWCNTで代替することで導電剤量を減らし、高容量化が可能になると考えられている。前述した通り、他社品のSWCNT分散液はフッ素を含む分散剤を使用しておりPFAS規制に該当することから、代替品としてPCCシリーズの適用を視野に評価を実施した。(図6)に高容量Ni-Co-Mn系酸化物(NCM811)を正極に使用した時のサイクル特性(フルセル)を示す※2。その結果、PCCシリーズは他社品と同等のサイクル特性を示すことが判明した。

正極に使用した時のサイクル特性(フルセル) 図6正極に使用した時のサイクル特性(フルセル)

※2 NCM811(97.64)/PCCシリーズ(0.06)/バインダー(2.3)。カッコ内の単位:wt%

電磁波遮蔽性

 近年、通信機器やレーダーなどで使用される電磁波の高周波化が進んでいる。これにともない、機器から発生する電磁波によって電子機器や通信に不具合が起こる危険性が増加しており、電磁波遮蔽材のニーズが高まっている。

 開発したPCCシリーズは高い導電性を有することから、電磁波遮蔽性能の評価を試みた(図7)。評価サンプルはPETフィルムにPCCシリーズを塗布し、溶剤を乾燥させて作製した。横軸は電磁波の周波数、縦軸は電磁波遮蔽性能を示している。一般的には30dB以上の電磁波遮蔽性能が求められている。PCCシリーズを塗布した結果、0.1MHzから110GHzと広い周波数帯で電磁波を遮蔽することが判明した。この結果から、PCCシリーズはリチウムイオン電池への活用だけでなく、電磁波遮蔽の用途でも活用できると考えている。

図7電磁波遮蔽性能の評価

おわりに

 「エレクセルPCCシリーズ」はフッ素フリー分散剤を使用しており、他社品と比べバンドル径が細く、分散安定性、耐熱性に優れていることを紹介した。また、高容量リチウムイオン電池の負極および正極の導電剤として使用することで、繰り返し充放電後も導電パスを維持するため、電池の長寿命化を可能にする。さらに、エレクセルPCCシリーズは導電性が高く、電子機器などに塗布することで電磁波遮蔽能を付与できる。  今後、幅広い分野での用途開発につながる材料提案を行い、社会課題の解決に貢献していく。

山本 美伽

山本 美伽 Mika Yamamoto 事業本部 環境・エネルギー事業部 環境・エネルギー研究部 エレクセルグループ

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